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大阪地方裁判所 昭和30年(行)43号 判決 1960年2月22日

布施市稲田一三九五番地

原告

平井町子

大阪市東区杉山町、大阪国税局内

被告

大阪国税局長

金子一平

右指定代理人

大阪国税局大蔵事務官

宗像豊平

右当事者間の前記事件について当裁判所は昭和三五年一月二九日に終結した口頭弁論に基づき次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が原告に対して昭和三〇年四月二七日になした原告の昭和二八年度所得金額を二〇八、〇〇〇円とする審査決定のうち、一四九、一二八円を超過する部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

「一、原告は肩書住所地で菓子、果物等の小売業を営む者で、昭和二九年三月一五日昭和二八年度所得税に関し、所得金額を一四九、一二八円とする確定申告書を布施税務署長に提出したところ、同署長は同年四月二八日、原告の所得金額を二四六、九〇〇円とする更正処分をした。そこで原告は同年五月三一日同署長に対し再調査の請求をしたが同年七月一二日棄却された。原告はさらに同年八月一三日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は原告の主張の一部を認めて昭和三〇年四月二七日、原告の所得金額を二〇八、〇〇〇円とする審査決定をし、原告は翌二八日右決定の通知書を受領した。

二、しかし、原告の昭和二八年度の所得金額は、確定申告のとおり一四九、一二八円が正確であつて、それ以上の所得はなかつたのであるから、被告の審査決定が原告の所得金額を二〇八、〇〇〇円としたのはなお過大であつて右決定は違法である。よつて右決定のうち、原告の所得金額について、一四九、一二八円を超える部分の取消を求める。

被告は主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実のうち一、の事実は全部認めるが二、の事実は争うと述べ、次のように主張した。

「原告の昭和二八年度所得金額を二〇八、〇〇〇円とした根拠は次のとおりである。

一、訴外布施税務署長は、さきに原告の再調査の請求に対し、所属の収税官吏をして原告方の所得の調査を行なわせたが、その際原告はその営業に関する帳簿は一切作成していないし、納品書、領収書等の証ひよう類も保存していないといつて提出せず、唯一の資料は原告が記載したという売上メモだけであつた。ところがこの売上メモというのも、雑記帳に鉛筆で数字を列記しただけのもので、記帳の裏付けになる原始記録はないし、記入書体が一定しているばかりか、全く汚損していなくて一年間毎日記帳したものとはとても考えられないもので、むしろ後日になつて一括推計のうえ記入したものと認められるものであつた。さらにその後、大阪国税局協議団の協議官が原告方の所得を数回にわたつて調査したときにも、原告は帳簿や証ひよう類を提出しないし、前記売上メモすら提出しなかつた。被告は原告の審査請求を受けたので、これを大阪国税局協議団の協議に付したが、右のような事情で推計によつて原告の所得金額を算定するほかなかつた。

二、(一) 原告の営業の概況

原告は肩書住所地、国電片町線徳庵駅に間口二間半、奥行一間半の店舗を有し、菓子、果物、清凉飲料水の小売のほか、夏期にはかき氷の販売を併せ行なつている。附近の交通機関として国電、バスなどがあつて、徳庵駅附近は一本道になつているので、いずれの交通機関を利用するにしても右商店街を通ることになり、商店街はかなり繁栄している。原告方店舗はこのほぼ中心部、徳庵駅から約五〇米の地点に位置していて、原告のような業種にとつては比較的立地条件に恵まれている。従業員は原告とその夫の二名である。

(二) 売上金額の算定

(1)  菓子、果物および茶の売上

原告方の昭和二八年度における右各商品のたな卸価額は次の表のとおりである(第一表)。

種類 期首在庫高 期末在庫高 平均在庫高(一円未満切捨)

菓子 一三、四五二円 一一、六八六円 一二、五六九円

果物 七、九〇〇円 九、七九〇円 八、八四五円

茶 一、〇九〇円 九一七円 一、〇〇三円

右の各商品の平均在庫高にその商品の回転率(平均在庫高が一年間に何回回転するかを表わす数字)を乗ずれば各商品の年間売上高が算出できる。ところで、一般に商人は取扱商品の種類、売行き、資金繰りなどの関係をにらみ合わせて、最も有利に商品を回転させようと腐心するのが常であるから、同様な営業で、同規模の店舗であれば、この回転率は大体において一定しているといつてよい。菓子、果物および茶の小売の場合、標準的な回転率はそれぞれ三四・五、九三・五、一二・八である。したがつて前記の表の平均在庫高に右回転率を乗じた額の合計一、二七三、四七五円が原告の菓子、果物および茶の年間売上高となる。

算式(一円未満切捨)

菓子 12,569円×34.5=433,630円

果物 8,845円×93.5=827,007円

茶 1,003円×12.8=12,838円

合計 433,630円+827,007円+12,838円=1,273,475円

(2)  清凉飲料水等の売上

コーヒー、ラムネ、ジユースの売上の計算は次の表のとおりである(第二表)。

商品名 単価 一ケ月当り売上数量 営業日数 年間売上高

コーヒー、ラムネ 一〇円 三〇〇本 六カ月 一八、〇〇〇円

ジユース 二〇円 三〇本 六カ月 三、六〇〇円

合計       二一、〇〇〇円

なお原告の再調査請求に対する布施税務署の調査によると、調査時(昭和二九年七月八日)のコーヒー、ラムネ、ジユースの空瓶、冷蔵庫の冷やし量から見て一日平均三〇本(盛夏八〇本、春秋で二〇本)の売上があると推定され、販売期間も四月から一〇月まで七カ月と認められたし、原告の審査請求に対する被告の調査では三月一五日ですらラムネ三五本、コーヒー四〇本、ジユース三五本の在庫があつたくらいであるから前記の表による計算はむしろ低きに失するぐらいである。

(3)  かき氷の売上

原告は訴外徳野平太郎方から氷を仕入れており、夏期(二カ月)における一日平均仕入量は五貫匁である。そして通常氷五百匁でかき氷七杯をとるから、一日七〇杯、販売単価は一〇円であるから、二カ月六〇日として四二、〇〇〇円の売上となる。原告の昭和二八年度の売上金額は以上の各売上金額の合計一、二八九、九三五円となる。

(三) 所得金額の算定

同業者の通常一般の所得率(売上金額に対する通常経費を控除した所得額の比率)は菓子小売につき一九%、果物小売につき一九%、茶小売につき二三%、清凉飲料水小売につき一六%、かき氷小売につき三四%である。ところで原告の営業の状態は前記(一)に述べたとおりで、通常の業者と比べてなんら差異がないから右の各所得率をそのまま適用し、売上金額に所得率を乗じて計算すると次のとおりになる。

算式(一円未満切捨)

菓子 <省略>

果物 <省略>

茶 <省略>

清凉飲料水 <省略>

かき氷 <省略>

合計 82,389円+176,143円+2,952円+3,456円+14,280円=279,220円

右の金額二七九、二二〇円から、特別経費として家賃年額一〇、一〇四円の八〇%に相当する八、〇八三円を控除した残額二七一、一三七円が原告の昭和二八年度の所得金額である。

三、以上のように原告の昭和二八年度の所得金額は二七一、一三七円であるから、これを下廻つて二〇八、〇〇〇円とした被告の審査決定は適法である。」

証拠として被告は乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし七、第五号証を提出し、証人高塚弘、同中井英一、同木田清蔵の各証言を援用した。

原告は被告の前記主張事実を記載した準備書面および前記乙号各証の写を受領しながら、右各準備書面に基づく陳述および乙号各証の提出された口頭弁論期日以後、郵便送達の方法で呼出を受けているにもかかわらず、同年一一月五日、昭和三五年一月二五日の各口頭弁論期日に出頭しなかつた。

理由

一、原告主張の一の事実は当事者間に争いがない。

二、被告は、原告の昭和二八年度の所得金額は二七一、一三七円となり、被告の右審査決定の認定額はむしろ低きに失するぐらいで右認定にはなんら違法はないと主張するのに対し、原告は、昭和二八年度の所得金額は、確定申告書の一四九、一二八円が正確であつて、これを超過する被告の右審査決定は違法であると主張するので判断する。

(一)  証人高塚弘、同中井英一の各証言によると、原告は昭和二八年度の営業についての帳簿は作成していないといつて提出しないし、納品書や領収書等も満足に保存されておらず、原告が提出した唯一の資料である売上帳と称するノートも雑記帳に鉛筆で走り書きで数字を書いてあるだけでなんの裏付けもないし、しかも同一筆跡で書かれており、ほとんど汚れてもいないので、むしろ後日になつてまとめて一度に記入したと考えられ、とても信用できないようなものであつたことが認められる。したがつて、被告が審査決定をなすに当つて推計計算の方法によつて原告の所得金額を計算したことはもとより相当である。

(二)  (1) 原告の営業の概況

前掲各証人の証言によると、原告は肩書住所の国電片町線徳庵駅前商店街に店舗を有し、菓子、果物、清凉飲料水の小売のほか、夏期にはかき氷の販売を併せ行なつていること、右商店街は布施税務署管内では上の部に属し原告の営業にとつてはきわめて良い立地条件であること、原告は夫と二名でその営業に従事していることがそれぞれ認められる。

(2) 売上金額の算定

(イ)  菓子、果物および茶の売上

民事訴訟法第一四〇条により、原告が成立を自白したものとみなす乙第一号証の一、二によると、原告の昭和二八年度における右各商品のたな卸評価額は被告主張の第一表のとおりであることが認められる。そして証人木田清蔵の証言とこれによつて成立を認めることのできる乙第三号証の一ないし四を綜合すると、昭和二八年度、中都市の小規模な店舗における菓子小売、果物小売、茶小売の各営業の場合、平均在庫高の回転率(年間の回転数)は、それぞれ三四・五(回)、九三・五(回)、一二・八(回)と計算されていること、同証人の証言によると、この回転率は、各年度毎にいわゆる無作為抽出法によつて同種営業のうちから標本を選び、そこから集められた資料を統計学の理論に基づいて整理計算する方法で算出されたものであつて、結局当該年度における一定規模の同種営業の標準的な回転率を意味するものであることがそれぞれ認められる。ところで原告の営業の概況は先に認定したとおりで、立地条件に恵まれているし、他の業者に比して回転率が低いと考えなければならない特段の事情の認められない本件においては、右に認定した平均在庫高に各回転率を乗じて、これを原告の昭和二八年度の菓子、果物、茶の各小売による売上金額を算定することは決して不合理ではないと認められる。そうすると原告の同年度における菓子、果物、茶の各売上金額の合計は一、二七三、四七五円となる(算式は被告主張のとおり)。以上の認定を左右する証拠はない。

(ロ)  清凉飲料水の売上

この点については、被告主張の計算の根拠となる清凉飲料水の一日当り平均売上数量について、被告の主張を認めるに足る証拠がないから、結局被告の主張は認められない。

(ハ)  かき氷の売上

前記同様原告が成立を自白したものとみなす乙第二号証の一、二に証人高塚弘の証言を綜合すると、原告は訴外徳野平太郎方から、夏期二カ月(七、八月)間、一日平均五貫匁の氷を仕入れていること、同証人の証言によると、通常氷五〇〇匁からかき氷は一四杯位とれるもので、溶ける分量を考慮しても七杯は充分とれること、かき氷の販売単価は色々あつて一定しないが、最も安いもので一〇円であることがそれぞれ認められる。そうすると原告のかき氷の売上は、二カ月六〇日として計算して四二、〇〇〇円を下らないことは充分推認できる。これに反する証拠はない。

(3) 所得金額の算定

証人木田清蔵の証言によつて成立を認めることのできる乙第四号証の一ないし七によると、菓子小売によるいわゆる所得率は少くとも一九%(あめ菓子一九%、生菓子二〇%、干菓子一九%)、果物、茶、かき氷の各小売による所得率はそれぞれ一九%、二三%、三四%と計算されていること、右所得率とは売上金額に対する所得(ただしいわゆる特別経費は控除されていないもの)の割合を示すものであつて、前に述べた平均在庫高の回転率と同様の方法で、統計学の理論に基づいて算出されたもので、同種業者の標準的な所得率を示すものであることがそれぞれ認められる。原告の営業が他の業者に比して劣ると考えられる事情もないと認められ、かえつて、立地条件に恵まれていることは前に認定したとおりであるから、原告の所得を計算するにあたつては、前認定の各売上金額に、右の各所得率を乗じた額から、特別経費を控除した額を所得金額と推定するのが合理的である。ところで、原告の特別経費は家賃年額一〇、一〇四円の八〇%にあたる八、〇八三円であることは原告の明らかに争わないところである。以上のことから原告の昭和二八年度の所得金額を計算すると次の計算のとおり二四八、六六九円となる。

算式

菓子 <省略>

果物 <省略>

茶 <省略>

かき氷 <省略>

総所得金額(82,389+157,131+2,952+14,280)円-8,083円=248,669円

三、そうすると、右の二四八、六六九円より低額の二〇八、〇〇〇円を原告の昭和二八年度所得金額とした被告の審査決定は結局適法であるから、原告の本件請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平峯隆 裁判官 中村三郎 裁判官 上谷清)

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